目的および方法:ラット脳のドーパミン作動性ニューロン(DAニューロン)に、免疫系の情報伝達物質サイトカインの一種であるインターロイキン2のレセプターαサブユニット(IL・2Rα)が存在するか否かを、免疫組織化学的二重染色法を用いて検索した。IL・2Rαのマーカーとして抗IL・2Rα抗体を、DAニューロンのマーカーとして抗ドーパミン抗体を用いた。それぞれを、FITCおよびTexas-Redでラベルして、蛍光顕微鏡のフィルターを変えて観察した。また、共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いた観察も行なった。双方の抗体に対して免疫組織化学的に二重に陽性であるニューロンが存在すれば、DAニューロンに、IL・2Rαが存在することになる。 結果:抗IL・2Rα抗体陽性ニューロンおよび抗ドーパミン抗体陽性ニューロンは、平成11年度の研究実績報告書で報告した領域にみられた。その後追試を重ね、弓状核および正中隆起において、抗IL・2Rα抗体と抗ドーパミン抗体に対して二重に陽性であるニューロンの細胞体および神経線維がみられた。また、線条体では、両方の抗体に対して二重に陽性である神経線維が観察された。 考察:今回の結果から、弓状核と正中隆起のDAニューロンがIL・2Rαを有することが証明された。また、線条体において、DAニューロンの投射線維が、IL・2Rαを有することが証明された。いずれも、ドーパミン作動性ニューロンの活動に対して、免疫系の情報が関与することを示唆する形態学的な事実である。精神分裂病者の脳脊髄液において、健常者に比べてIL・2が有意に増加しているという報告や、癌に対して治療的にIL・2を投与された患者に、せん妄、錯乱、などの精神症状がみられたという報告から、分裂病のドパミン仮説と自己免疫仮説の関連が考えられる。今回の研究結果は、免疫系の情報がドーパミン作動性神経系に影響を与え、精神症状の発症にも免疫系が何らかの役割を果たし得る可能性を示唆するものとして興味深い。
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