研究概要 |
differential displayによって、前頭領域に特異的に発現されている可能性のあるcDNA断片が複数確認された。前頭領域特異的発現として、differential displayによって採取されたcDNA断片(fragment I)は、海馬領域にも発現されていた。この発現非特異性は特異的プライマーを用いた、RT-PCR、及びクローニングされた配列断片で作成したriboprobeによるin situ hybridizationによって確認された。今回全長解析に取り組んでいる配列(fragment Iの全長cDNA)は、少なくとも、ポリAテイル側に二つのalternative splicingがあることは、3-RACE法によって確認された。加えて、ダウン症発生原因DNA部位21q22.2と相同性をもつ配列である。最初にdifferential displayによって獲得された、約180塩基の配列、この一部を含むalternative splicingによる、ポリAテイルまでの約170塩基の配列は、自動配列解析機をもちいたサイクルシークエンシング法により決定した。最初に発見した配列からポリAテイルまでの約1.5kbの配列もクローニングしたが、配列解析は現在進行中である。この、部分配列よりの、上流のクローニングは難航を極めたが、LA Tagを使用し、伸長時間を10分に延長し、約5kbの断片をクローニングした。現時点で、最上流の500塩基と下流プライマーからの1000塩基の配列解析が終了している。全長配列決定が済み次第gene bankへ登録する予定あり、研究の施行された施設の英文頭文字を取jms-1,jms-2とする。今後は、transgenic mouse作成により、中枢神経の機能異常が出現するか否かを検討する。加えて、今回differential displayによって、検出された他の前頭領域特異的発現のの可能性のある配列に関する解析も、施行してゆく。 本来的には、chronic unpredictable stressあるいは各種抗うつ薬投与による、新規発現遺伝子の検索を目的とした、研究であったが、その前段階として、前頭領域に発現され海馬領域では、発現されていないと見られる配列が複数個発見された。まず、着目したのが、今回取り上げた、ヒト染色体21q22.2と相同性を持つ配列であった。ダウン症で早期発症するアルツハイマー型痴呆等との関連に注目したためである。ただ、この配列は、前頭領域のみならず、海馬領域でも発現されていることが確認され、differential displayで認められた発現特異性は、偽陽性であったことになる。しかしながら、この遺伝子部位の重要性を鑑み、研究を続行している。human genome projectが順調に進行している現在、今後はpost genomeの時代へと未来的には転換し、機能蛋白一つ一つの特定が課題となっていくことになる。
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