覚醒剤による行動感作の成立は発達段階に依存し、ラットにおいては生後3週以降に認められ、また、コカイン等の他の薬物との交叉を示す。この現象は遺伝子発現を必要とし、長期持続性である。mrtlは覚醒剤であるメタンフェタミン(MAP)への応答がこの行動感作成立の臨界期以降に特異的に認められる新規ラット遺伝子であり、コカインにも応答し、また、mrtl翻訳開始点特異的なアンチセンスオリゴマーによって行動感作成立が阻害される。本年度は、mrtlの脳内発現様式を解析すると共に、遺伝子産物の同定を行った。また、行動感作成立への関与を行動薬理学的にさらに検討した。 in situハイブリダイゼーションの結果、mrtlは脳内に広く発現し、ニューロンでの発現が顕著であった。N末端領域のペプチドに対するポリクローナル抗体はラット脳のウェスタンプロットにおいて62kDaの単一バンドを認識し、この抗体によるラット脳免疫沈降物は抗リン酸化チロシンモノクローナル抗体4G10によって同じ62kDaのバンドとして認識された。MAP急性投与による発現増強は投与後1時間をピークとした一過性の現象であり、24時間後にはコントロールレベルに戻るが、MAP投与30分前にドーパミンD1受容体遮断薬SCH23390を投与することで抑制された。1日1回の投与を5日間連続したラットでは最終投与から2週間後においてもmrtlの発現が急性投与1時間後と同じ高いレベルに維持されていた。このMAP連続投与の各30分前にSCH23390を投与することによって行動感作の成立が阻害され、その条件においては最終投与2週間後の発現レベルはコントロールと同程度であった。 以上のように、新規ニューロナルPDZ蛋白質p62をコードするmrtlはD1受容体依存的にMAPによる発現増強を示し、行動感作成立によって長期的に維持されることが判明した。
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