研究概要 |
行動感作の成立は発達段階に依存し、ラットにおいては生後3週以降に認められ、また、コカイン等の他の薬物との交叉を示す。mrtlは覚醒剤であるメタンフェタミン(MAP)への応答がこの臨界期以降に特異的な新規遺伝子として単離され、1)MAP急性単回投与に対する一過性の発現増強、2)コカインに対する交叉応答性、3)薬物応答のドーパミンD1受容体依存性、4)mrtl翻訳開始点特異的なアンチセンスオリゴマーによる行動感作成立阻害、5)行動感作成立ラットにおける発現増強の長期持続、といった特徴から行動感作への関与が示されてきた。本年度は、mrtl遺伝子産物(MrtlA、MrtlB)を特異的に認識する抗体を用いてその局在を解析を行った。 MrtlA、MrtlBに共通するN末端に対する抗体(α-pan-Mrtl)は、ラット大脳新皮質抽出液のウェスタンブロット上で62kDaのバンドを検出し、各C末端に特異的な抗体(α-MrtlA,α-MrtlB)も同様に62kDaのバンドを認識した。α-pan-Mrtl、α-MrtlBが認識する62kDaの蛋白質はsynaptosome画分に濃縮され、PSD画分では検出されないことからプレシナプスへの局在が示唆されたが、α-MrtlAではsynaptosome、PSDへの濃縮は認められなかった。α-pan-Mrtlによる免疫組織染色像において、強いMrtl様免疫反応が海馬CAlや大脳皮質の錐体細胞の樹状突起に沿って小さな点状に認められた。 以上のように、mRNAレベルでMAP応答性を示すMrtlBが特異的にプレシナプスに局在することが示唆された。PDZ蛋白質群は分子的足場としてシナプス可塑的性に関与することが指摘されており、今後、新規プレシナプスPDZ蛋白質MrtlBの機能を明らかにすることによって、行動感作成立メカニズムの理解が大きく進展すると期待される。
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