研究概要 |
糖尿病性腎症の発症における糸球体の酸化ストレスによる細胞傷害、アポトーシス、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、NOとスーパーオキシドの反応産物である過酸化亜硝酸の痕跡とされるニトロチロシン、フリーラジカル消去系であるsuperoxide dismutase(SOD)の変化をaldose reductase(AR)発現トランスジェニツクマウスを用いて調べた。 AR糖尿病群、AR非糖尿病群、正常対照群、糖尿病対照群のマウス4群を用い、ストレプトゾトシン(STZ)投与8週後の腎臓のホルマリン固定、パラフィン切片を用い、主に免疫組織化学的に検討した。 STZ投与により、AR糖尿病群、糖尿病対照群とも腎重量は有意に増加していた。糸球体は糖尿病群で大きい傾向にあったが、メサンギウム領域、基底膜の変化は明らかでなかった。 アポトーシスはTUNEL法を用いて行ったが全ての群で検出できなかった。Mn-SOD、Cu,Zn-SOD、酸化ストレスのマーカーである8- hydroxyl-2'-deoxyguanosine、アクロレインも糸球体には全ての群で検出できなかった。 Mn-SODは尿細管上皮でAR非糖尿病群、正常対照群では発現がわずかだったが、糖尿病群では発現の増強が認められた。しかしながら、AR糖尿病群と糖尿病対照群ではMn-SODの発現に明らかな差はみられなかった。iNOSはAR糖尿病群でのみ、極一部の糸球体に発現がみられ、ニトロチロシンもiNOSと同様の部位に陽性部位が認められた。AR糖尿病群以外の3群では糸球体にニトロチロシンは認められなかった。 マウスの糖尿病における上記マーカーを使用した今回の検討では、腎糸球体の細胞傷害やAR過剰発現による違いは明らかでなかったが、糖尿病性腎症の一部にARの過剰発現とiNOS由来のNOによる関与が否定できないと考えられた。
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