近年の細胞生物学の進歩により蛋白質のリン酸化が細胞の制御に重要な役割を果たすことが明らかになってきている。リン酸化の過程はリン酸化を触媒するプロテインキナーゼと脱リン酸化を触媒するプロテインフォスファターゼにより可逆的に制御されている。プロテインフォスファターゼは逆反応のリン酸化をつかさどるプロテインキナーゼとの協同作業により、細胞内蛋白質のリン酸化レベルを調節する機能を有し、様々な細胞機能の制御因子として重要性が注目されてきている。プロテインフォスファターゼには様々な分子種が存在するが、細胞内シグナル伝達、遺伝子発現制御や代謝調節において、個々の分子種が果たす役割の実態が徐々に明らかにされつつある。本研究はメサンギウム細胞機能制御におけるファスファターゼの役割を検討することであり、本年度には以下における知見を得た。 1.メサンギウム細胞の増殖・遊走因子であるPDGFを作用させると、メサンギウム細胞のギャップ結合を介したシグナルの伝達をブロックし、コネキシン43をリン酸化する。これにはPI3kinaseを介したシグナル伝達系が働く(Kidney lnternationalin press) 2.サイトカラシンDによるメサンギウム細胞のメタロプロテアーゼの活性化には60KDaと120KDaの蛋白のリン酸化の程度の減少を伴う。フォスファターゼ阻害剤のPAOによる蛋白脱リン酸化の阻害はMMP-2の活性化阻害を引き起こす。これらからMMP-2の活性化調節に蛋白フォスファターゼが働いている可能性がある。
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