本研究では、生体病理組織の物理特性を音響学的に測定、評価することが可能な超音波生体組織特性システムを用いて、実験腎炎モデルおよびヒトの腎病理組織の形態学的変化を観察、定量化し、このシステムの腎糸球体領域における有用性を検討した。 本システムの構成は、機械走査型超音波顕微鏡装置(HSAM-500S)を主体とし、これに画像描出および解析を行う情報処理装置よりなる。この装置を用い、メサンギウム増殖性糸球体腎炎モデル(抗Thy1腎炎)とインシュリン非依存性糖尿病モデル(OLETF)の二種のラット実験腎炎モデルと、腎生検によって得られたヒト腎組織の観察を行った。 実験腎炎モデルにおいて、超音波顕微鏡による腎組織二次元像(Cモード像)では、腎組織の各部位を明瞭に識別でい、メサンギウム増殖性糸球体腎炎モデルはメサンギウム基質の増生部位を確認し得た。X-Z軸走査により得られる干渉縞のずれ量から計算式で求めた超音波組織内伝播速度の比較では、メサンギウム増殖性糸球体腎炎群で組織内伝播速度の増大を認め、糖尿病腎症モデルでは、光顕所見で有意な変化を認めない初期の段階で伝播速度の増大を認めた。ヒト腎組織においても同様に、ネフロン構造の微細部位まで確認することが可能であり、従来の光学顕微鏡を用いた各腎疾患での特徴を示唆する所見を得ることができた。 結論として、多種の腎組織に対し超音波顕微鏡を用い、硬化度の指標となる音速分布を測定した。超音波顕微鏡は腎組織にて音響特性の違いより像を形成しえ、また腎炎糸球体では伝播速度の増大が認められた。本研究の結果より超音波顕微鏡を含むこのシステムは、糸球体病変の評価に、新たな且つ定量的な情報を与えうる可能性が示唆された。腎糸球体観察において、客観性、定量性、かつ早期病変検出という見地から、超音波顕微鏡の有用性が確認された。
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