脳形成過程において、周産期にうける物理的あるいは循環動態的変化は、その後の発達に重要な影響を与える。本研究では、周産期脳循環障害におけるアポトーシスの関与を調べ、その病態解明を検討し、その予防および治療の可能性を探ることを目的とした。昨年度の結果から、周産期脳循環障害にアポトーシスがみられたが、caspase3(CPP32)のmRNAの発現には対照群と差がなかった。今年度では、成熟児と未熟児の7ポトーシスのメカニズムの違いを調べた。周産期脳循環障害に多くみられる橋鈎状回壊死(PSN)について、成熟児と未熟児とに分けて分子病理学的に検討した。 1.臨床病理学的検索:神経病理学的にPSNと診断された症例と正常対照を、臨床的に低血糖を伴う群と在胎21週から30週の未熟児群、31週から40週の成熟児群にわけて、ヘマトキシリン・エオシン染色、in situ taillng reaction(TUNEL)法により、アポトーシスの形態学的および量的評価を臨床病理学的に調べた。その結果、未熟児群で優位にアポトーシス細胞が多く観察された。未熟神経細胞ほどアポトーシスによる変化をきたしやすいものと思われた。 2.遺伝子病理学的検索:PSNの未熟児群と成熟児群および正常対照の橋核のサンプルを用いてcDNAを合成し、RT-PCR法により細胞内シグナルトランスダクションに働く遺伝子群の発現を比較検討した。その結果、PSN症例ではFADD(FASassociateddeathdomainprotein)が優位に高発現していた。特に、未熟児群で高発現であり、Fasを介するシグナルが発達期の神経細胞死に重要な役割をしている。これらの結果から、ヒト発達期の脳障害にFasを介したアポトーシス発現が関与し、脳の未熟性が危険因子であることがわかった。
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