本研究では、蛋白質セリン/スレオニン部位でリン酸化と競合する糖鎖として注目される0結合型Nアセチルグルコミンサン(O-GlcNAc)のインスリン抵抗性における意義を検討した。高血糖状態がO-GlcNAc transferase(OGT)活性を上昇させ、タンパク質リン酸化におけるセリン/スレオニン部位がO-GlcNAcによって占められることが知られており、この反応を触媒する酵素がOGTである。もし高血糖によってOGTが活性化されインスリンシグナル伝達に関わる分子のO-GlcNAc化が亢進するならばインスリン抵抗性が生じる可能性がある。そこで、以下の検討を行った。(1)脂肪細胞に分化させた3T3-L1細胞を用い、インスリンをIRに結合した後、IRβサブユニット、IR基質1(IRS-1)、IRS-2、IRS-3、PI-3キナーゼの免疫沈降を行い、小麦胚芽レクチンによるブロッティングのよりO-GlcNAc化を検出した。その結果、IRβサプユニット、ISR-1に軽度のO-GlcNAc化を認めたがIRS-2、IRS-3、PI-3にはO-GlcNAc化は見られなかった。(2)3T3-L1、肝癌細胞株HepG2にOGTcDNAをトランスフェクションし、OGT過剰発現によってリン酸化の変化を観察した。OGT過剰発現によりIRS-1のリン酸化はコントロールに比較して経度減少した。IRS-2のリン酸化はコントロールと比較して変化は見られなかった。糖尿病状態でのO-GlcNAc化を調べるため、(3)高グルコース(16.5mM)下で各分子のO-GlcNAc化の有無を調べた。IRβサブユニット、IRS-1ではO-GlcNAc化が見られたが、IRS-2、IRS-3、PI-3では明らかでなかった。以上より、O-GlcNAcがインスリン抵抗性において何らかの役割を演じている可能性が示唆された。
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