研究概要 |
今年度は,マウス膵β細胞cell lineであるβTC1細胞を用いて,血中FFAの中で最も高濃度に存在するオレイン酸が,膵島細胞傷害を増強する可能性を検討した。 βTC1細胞およびβTC1にヒトFas遺伝子を導入して作成したhFas/βTC1細胞を用いた。アポトーシスの誘導には,ヒトFas抗体(CH11)を使用した。細胞傷害および核の断片化はpropidium iodide染色によった。Caspase 3活性は蛍光基質Ac-DEVD-MCAを用いて測定した。細胞内ATP含量はluciferin法で,NO産生量はnitriteとして測定した。また,Bcl-2のmRNAレベルはRT-PCR,Bcl-2蛋白量はWestern blotにより検討した。 βTC1細胞にオレイン酸を0.2〜1mMの濃度で添加すると,1mMで軽度の細胞傷害作用と約10%のATP含量減少を示したが,NADのラダー状切断はみられず,caspase 3活性も上昇しなかった。また,NO産生誘導は認められず,NAD含量の減少もみられなかった。一方,hFas/βTC1細胞は,Fas抗体によりcaspase 3が活性化され,核の断片化・DNAのラダー状切断を示すアポトーシスをきたした。このFasを介するβTC1細胞のアポトーシスは,0.5〜1mMのオレイン酸をFas抗体と同時に添加すると顕著に亢進し,DNA切断も増強された。この増強作用がBcl-2の減少による可能性を検討したが,Bcl-2のmRNAおよび蛋白レベルには変動がみられなかった。 オレイン酸がFasを介するβ細胞のアポトーシスを増強することは,1型糖尿病の自己免疫性膵島細胞傷害がFFAのlipotoxicityにより増強される可能性を示唆している。今後,この機序を明らかにするためアポトーシス調節因子への作用を検討する予定である。
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