【目的】大網は創傷治癒を促進させると考えられているが、詳細については不明である。今回我々は大網の血管新生能に注目し、大網被覆した腸管吻合部の創傷治癒過程におけるVEGF動態について検討を行った。 【方法】Wistar Ratを使用し、腸管吻合モデルを作成した。吻合部への大網被覆の有無で大網被覆群と非被覆群の2群に分け、術後1、2、3、5、7日目に吻合部及び被覆した大網を摘出し(各病日n=6)、以下の項目について検討した。(1)H&E染色標本を用いて吻合部内血管数及び肉芽組織の厚さを測定。(2)ELISA法で吻合部および被覆した大網内VEGF濃度を測定。(3)免疫組織染色法で吻合部におけるVEGF発現細胞を検討。 【結果】(1)大網被覆群における吻合部内血管数及び肉芽組織の厚さは、非被覆軍と比較し、術後3〜7日目で有意に増加していた。(2)大網被覆群における吻合部内VEGF濃度は、非被服群と比較し、術後1〜3日目で有意に増加し、また大網被覆群における大網内VEGF濃度は、正常大網と比較し、術後1〜5日目まで有意に増加していた。(3)VEGF免疫組織染色では発現細胞の分布で両群間に差がみられた。すなわち大網被覆群では、創傷治癒の炎症期には主にマクロファージ、線維芽細胞や脂肪細胞に、増殖期には主に線維芽細胞や脂肪細胞に検出されたが、非被覆群では全病日を通じて主に浸潤した好中球などの炎症性細胞に検出された。 【考察・結論】大網被覆群では創傷治癒の炎症期から被覆した大網内VEGF濃度の増加と同調して吻合部内VEGF濃度が増加し、これにより血管新生と肉芽増生の促進が起こると考えられた。更に両群間で発現細胞の分布に違いが認められることから、大網被覆によるVEGFの発現増加は大網内脂肪細胞による産生だけでなく、大網被覆により誘導されるマクロファージや線維芽細胞などが関与している可能性が示唆された。
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