研究概要 |
スキルス胃癌は高頻度に播種性腹膜転移をきたすため,その転移メカニズム解明には,スキルス胃癌細胞株を用いた播種性腹膜転移モデルが有用である.今回樹立したスキルス胃癌原発巣由来細胞株(OCUM-2M;以下2M)は腹膜播種をほとんど形成しなかったが,2M細胞を胃壁に移植する方法を繰り返すことにより,高率に播種性腹膜転移を形成する細胞株(OCUM-2MD3;以下D3)を樹立した.親株2Mの腹腔内接種では腹膜播種の形成はみられないが,D3は,腹腔内接種により腸間膜,大網,後腹膜等に多数の播種性転移を高率に形成する.いずれも多数の癌細胞を含む血性腹水を伴っており,組織学的にも,癌細胞が腹膜に接着・浸潤した像が認められた.そこで,今回樹立された低転移株2Mと高転移株D3の性状を比較することにより,腹膜播種性転移メカニズムを検討した.胃壁間質は,主として,Type I,Type IIIコラーゲンより構成されている.癌細胞が,胃壁を浸潤して漿膜面から離脱するには,これらのコラーゲンを分解する酵素であるマトリックスメタロプロテナーゼ-1(MMP-1)の産生が必要である.MMP-1の産生能を比較したところ,D3(190ng/ml)の方が2M(6.2ng/ml)に比べ高く産生していた.他のマトリックスメタロプロテナーゼ(MMP-2,3,9)やTIMP1,2には明らかな差はなかった.癌細胞が,胃壁を進展し漿膜面に露出するためには,MMP-1産生亢進が有利にはたらくことが示唆された.さらに,露出した癌細胞が,原発巣から離れ腹腔内に遊離するためには,細胞間接着の低下が重要となってくる.細胞間接着に関与するものとして,接着分子E-Cadherinがある.両細胞株のE-Cadherin発現はD3(59%)が2M(87%)に比べ低下していた.E-Cadherin発現低下は,播種性転移に有利な条件の一つであることが示唆された.
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