我々はこれまでにラットの脳室内にTNF-αを微量投与した際、カテコーラミン等のストレスホルモンが増加し糖新生や蛋白異化亢進を起こすことを報告し、侵襲時における脳内サイトカイン発現の重要性を示した。そこで、本研究では、外科侵襲時および腫瘍増殖に伴う脳内サイトカインの発現について検討したうえで、担癌生体における術後の免疫抑制機構を明らかにし、それに伴う腫瘍増殖を抑止することを最終目標としている。平成11年度にマウスに開腹創の異なる外科侵襲を加え、術後3、24時間の脳、肝臓、小腸粘膜、腹膜におけるTNF-α mRNA発現量を測定した。その結果、脳と肝のTNF-α mRNA発現量は開腹創の大きい群が小さい群に比べ有意に高値を示した。これらの結果については現在Journal of Surgical Resarchに投稿し発表予定である。一方で、皮下移植した担癌マウスを作製し、脳内TNF-α mRNAの発現について検討したところ、腫瘍重量が僅か0.1gの時点で脳内TNF-α mRNAの発現が他臓器(肝臓、小腸粘膜、筋肉)に比べ有意に増加した。さらに、腫症重量が1.5gに増加し食欲不振が起こった時点では脳ならず他臓器のTNF-α mRNAの発現量が非担癌マウスに比べて有意に増加した。これらの結果は外科侵襲時および担癌生体にとって脳内TNF-α mRNAの発現が重要な役割をしめている。平成12年度はこれら基礎実験のもと担癌マウスに外科侵襲を加え、脳を含めた各臓器のTNF-α mRNAの発現に及ぼす影響について検討したい。
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