種々の原因で発生する気管・気管支壁欠損の修復には広背筋、大胸筋、腹直筋、肋間筋などの有茎筋弁、あるいは有茎横隔膜、心膜、胸膜、大網、空腸片などによる被覆が行われてきた。これら有茎自家組織に比べ、遊離筋膜パッチは手技的には容易であるが、筋膜のみでは気管被覆材料としての耐圧性や安全性に問題があると考えられる。最近大動脈解離手術に汎用されているGelatin-Resorsin-Formaldehyde/Glutaraldehhde(GRF)glueは、良好な組織接着性と補強効果のため、呼吸器外科領域でも気瘻閉鎖にその有用性が評価されつつある。 本研究の目的は気管・気管支瘻(気管・気管支壁欠損)に対するGRF glue補強筋膜パッチ閉鎖術の治癒過程を動物実験モデルにて明らかにし、有用性と使用条件を明らかにすることにある。 イヌを用いた動物実験にて、遊離筋膜パッチは20頭中17頭(85%)で生着した。しかしながらGRF glue補強遊離筋膜パッチ群では8頭全例に縫合不全を併発した。我々の仮説に反し、筋膜パッチの生着率は高く、GRF glue補強では逆に創傷治癒不全をきたすという結果を得た。以上より遊離筋膜パッチをより安全な術式とするためには新たな補強方法を確立する必要があると考えられた。
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