まず、準備実験としてドナー犬から採取した胸部大動脈をトレハロース含有冷凍保存液で1ヶ月保存後に大動脈を移植する時に、実験I:ニチノールステントと大網被覆の両方を行わないものと、実験II:ニチノールステントは使用しないが大網被覆を行った2実験を行った。実験Iは術後8日目に死亡し、剖検所見では虚血による移植大動脈の気管との縫合不全を認めた。実験IIは術後7日目に死亡したが、剖検では気管と移植大動脈との間には縫合不全は認めず、死因は被覆した大網が移植大動脈を絞扼することによる窒息であった。この2実験から移植大動脈グラフトの内腔を保持するためにニチノールステントを使用することと血流を保持するために大網による移植グラフトの被覆が必要であることが判った。 次にドナー犬から採取した大動脈をトレハロース含有冷凍保存液で凍結保存せず直ちにレシピエント犬に移植する非凍結保存群を2頭の犬に対して行った。いずれの犬も大動脈グラフトの内腔保持のためにニチノールステントの使用と血流保持のために大網によるグラフトの被覆を行った。術後1、2、3、4、8週目に気管支鏡検査で観察した。2頭とも各週における気管支鏡所見では、気管との吻合部に縫合不全やグラフトの狭窄は認めなかった。1頭は術後62日目に死亡したが剖検ではグラフトの縫合不全や狭窄は認めず、死因は胸腔内へ腸管が逸脱したことによる食物摂取不良によるものであった。もう1頭は術後123日目に死亡した。術後8週目までは移植大動脈グラフトには狭窄は認めなかったが、剖検ではニチノールステントの網の目を越えて内膜が増殖し、これによって狭窄を引き起こし窒息したものと考えられた。現在、この狭窄の原因について病理学的検索を行っている。今後は、トレハロース含有冷凍保存液で1ヶ月間冷凍保存した大動脈を用いた凍結保存群の実験を行う予定である。
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