研究概要 |
同種大動脈弁グラフトは抗血栓性、抗感染性、血行動態特性においては現在臨床使用されている代替弁のなかでは最も優れていると考えられる。しかし、弁構造の耐久性については機械弁に劣り、これには、免疫学的要因の関与が示唆されている。また、近年ドナー不足によりグルタルアルヒド処理を行わない異種組織の利用による新たな人工弁の開発が注目されている。今回、保存法や同種および異種抗原性が弁組織および大動脈壁にもたらす組織学的、形態学的変化を観察し、異種組織の臨床使用の可能性について検討した。 結果 BNラット及びSyrianハムスターより採取した大動脈弁グラフトを採取直後、凍結保存後、および冷蔵保存後にLEWラットの腹部大動脈に移植した。同種および異種グラフトにおいて、それぞれ移植後7,28,56日及び3,7,14日の形態学的、組織学的変化を観察した。同種グラフト大動脈壁は、移植片動脈硬化に特徴的な変化を示した。また、冷凍保存群において、弾性繊維の破壊がやや強く、弁組織は早期に消失した。異種グラフトでは、弾性繊維の破壊が著明であり、凍結保存及び冷蔵保存群で、瀰漫性の弾性繊維の断裂、血栓や内膜肥厚による内腔狭窄、著明な弁血栓、弁組織の早期消失を認めた。 考察 以上より、同種大動脈弁グラフトの形態学的変化には拒絶反応が関与し、冷蔵保存では保存過程における細胞外基質の保持の低下により弁構造の破壊が促進されることが示唆される。異種グラフトでは、保存による内皮細胞の消失により内皮の抗原性が低下する可能性はあるが、弁構造の基盤となる細胞外基質も免疫原性を持ち形態学的変化に関わるかもしれない。したがって、異種弁の使用においては、弁組織の除細胞に加えて、細胞外基質に対する免疫反応への対策も必要であると考えられる。
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