研究業績の概要 凍結保存異種大動脈弁グラフトは、現在最も理想に近い置換弁であるが、本邦では入手が困難である。そこで、凍結保存された同弁は拒絶反応が少ないことに注目し、凍結保存異種大動脈弁グラフトにつき検討を行った。前年度はラット大動脈弁腹腔動脈移植モデルにて凍結保存異種大動脈弁グラフトの組織変化につき検討したが、弾性線維の断裂や、弁組織の早期消失などを認めた。この結果によりやはり異種抗原に対する拒絶反応が示唆されたが、対象が小動物のため移植手技による機械的刺激による変化も考えられたため、今年度はより大動物を用いた実験を行った。 方法と結果 健康豚および健康雑種成犬より採取した大動脈弁グラフトを採取直後、凍結保存後、および冷蔵保存後に健康成犬の腹部大動脈に1弁付きパッチとして移植した。同種および異種グラフトにおいて、それぞれ移植後7、42日目に摘出し形態学的、組織学的変化を観察した。 移植後の大動脈壁での中膜細胞成分消失、弾性繊維構造の破壊が凍結保存グラフトにて観察された。この変化は異種でやや強い傾向にあった。また、冷蔵保存ではこの変化が軽度で同種、異種で差はなかった。弁組織では凍結保存において弁の肥厚が強い傾向にあったが、同種、異種の差違は少なかった。しかし、凍結保存異種グラフトでは弁葉の消失を認めるものもあり、強い拒絶反応が示唆された。 まとめ 以上より、異種グラフトでは、保存による内皮細胞の消失により内皮の抗原性が低下する可能性はあるが、凍結保存のみでは拒絶反応は回避できないと考えられた。今後の異種グラフト使用には、やはり免疫抑制剤は不可避であると考えられる。
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