研究概要 |
1:ヒト神経幹細胞の成人神経系内での局在の確認 神経幹細胞のマーカーとして用いられている anti-Nestin抗体(comercially available)による免疫組織学的解析にて、ヒト神経幹細胞の成人神経系内での局在を検討した結果、海馬、脳室周囲、subventricular zoneにnestin-positive細胞がクラスターを形成し高集積していることを確認した。大脳皮質、および小脳にもnestin-positive細胞が散在していたが密度は低かった。また、脳幹においては、nestin-positive細胞が比較的高密度で散在していることが判明した。 2:ヒト神経幹細胞の脱髄モデルへの移植 ヒト成熟脳より分離・培養・clonal expansion (cell-lineの確立) した神経幹細胞を免疫抑制下のラット脊髄の脱髄巣へ移植し、髄鞘形成能の検討を行った。脱髄モデルは,spinal cord dorsal column(Th-12)へのethidium bromideの注入と放射線照射により人工的に作成した。移植3週間後、還流固定し、光学顕微鏡、及び電子顕微鏡下で組織学的解析を行い、脱髄した軸策の再有髄化を確認した。また、同部位をextracellular recordingによる電気生理学的解析を行い、その機能回復を確認した。 3:ヒト神経幹細胞の虚血モデルへの移植 ヒト成熟脳由来の神経幹細胞を脳虚血モデル(Gerbilの1側頚動脈閉塞モデル)へ移植し、虚血巣内での生着・分化・シナプスの再形成を組織学的に確認した。さらに、虚血側と反対側に同細胞を移植し、ドナー細胞のホスト脳組織内での動向(生着、分布、移動、集積、増殖、分化、機能的神経再構築)を検討した結果、移植された神経幹細胞は、ホスト脳全域にわたり at randomに分散されるが、虚血に陥っていない正常領域ではそれ以上の増殖・分化は行わない。しかし、虚血領域では増殖・分裂・分化・神経組織の再構築を積極的に行っていることが判明した。 まとめると、 1) 神経幹細胞は生着率が高い 2) 正常脳組織内での遊走能が高い 3) 増殖・分化はホストの状態に非常に依存する。しかもその分化は、ホストの状況が要求している方向へと誘導される 4) 正常脳内では必要以上に分裂・増殖しない であり、脳梗塞の治療戦略に非常に有利である特質を備えていることが判明した。 以上の新知見は中枢神経系疾患に対するヒト神経幹細胞移植療法の開発において非常に希望的な情報であり、臨床応用に向けたさらなる研究が必要性であると思われる。上記のように、補助金は補助条件に従って非常に有効に使用されている。
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