研究概要 |
p57は細胞周期関連蛋白として注目されているCDK inhibitorの1つである。まず代表的なヒト悪性神経膠腫細胞株3株(U87MG,U343MG-A,U373MG)に、Tetracycline regulated systemに組み込まれたp57cDNAを導入させ安定したtransfectantsを樹立した。それらの樹立株においてp57遺伝子を強制発現させると、それら腫瘍細胞は完全に増殖能を失い発現を維持する限りG1 arrestを続けた。また形態学的には、p57遺伝子を強制発現させることにより親細胞とは全く異なる細胞質の平坦腫大化した、いわゆるlarge flat cellに変化した。この形態は従来からいわれている老化細胞に近似しており、老化細胞を同定するSA-β-Gal染色を行ったところ陽性像を示した。ところが樹立株3株の生存曲線を求めたところ、U373MGのtransfectantのみが有意に経時的な生存細胞数の減少を認めた。単に腫瘍細胞がG1 arrestから老化の方向に向かうだけであれば、この現象は全く理解に苦しむものでありさらに検討した。するとU373MGのtransfectantでは確かにp57遺伝子発現によるlarge flat cell化を認めているが、一部に核の断片化を認め超微形態的にもクロマチン凝集などのアポトーシスに典型的にみられる変化を示す細胞を同定した。なぜこの樹立株のみに本現象が認められるのかは不明ではあるが、わたしはp53 statusに関連しているのではと考えた。するとU87MGとU343MG-Aはwild-type p53を発現していたが、U373MGはmutant typeであった。今までいくつかの癌細胞株においてp53に異常をもつ癌細胞でのアポトーシスが報告されており、わたしの同定した現象もそれに一致するものである可能性は高い。 p57をヒト悪性神経膠腫細胞に強制発現させることにより、腫瘍細胞の増殖能を完全に抑制させさらに老化の方向にすすませるという強力な静細胞効果を確認した。またp53の異常型を有する細胞株ではp57強制発現によりアポトーシスを誘導できるという画期的な知見も得た。
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