髄芽腫細胞株であるD425とD458の培養系を確立し、Positive Controlを用い、様々なPrimerがRT-PCRで動作することを確認した。Teratocarcinoma、leukemia、malignant lymphomaなどの種々の腫瘍、がん細胞に分化を誘導することが知られているレチノイン酸(RA)の作用を検討した。まずtrk導入細胞でなくD425とD458野生株を用いた。D425(原発巣)とD458(播種細胞)の野生株にレチノイン酸処理を行うと、trkを導入しNGFを添加したのと同様、D425は細胞死をD458は神経細胞様分化を示したのである。その機構をRT-PCRで検討したところ、D425とD458ともRA添加前からNeurotropinであるBDNF、NT3の発現があり、添加後も発現は持続していた。それぞれその主な受容体であるtrkB、trkCはD425とD458ともRA添加前では発現は見られなかったが、両細胞ともに添加後に発現がみられた。すなわち内因性のNeurotrophin(BDNF、NT3)とRAで誘導されたTrk(trkB、trkC)とNerotrophin/Trk系を介した生理作用であるが、細胞死と分化を示した細胞の間で発現パターンに違いは認められなかった。ところが低親和性のNeurotropinの受容体であるp75NTRは、添加前は両細胞に発現はなかったが、RA添加後分化したD458にのみに発現していたのである。確かにこのp75NTRが細胞死を防ぎ分化を誘導すると結論するには証左が充分でないが、細胞死と分化の分岐点において重要な因子であるという結果が得られた。このモデルを用い、分化、細胞死機構について来年度も検討を加えていく予定である.
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