脳卒中あるいは外傷に起因する神経細胞傷害に、NMDA型グルタミン酸受容体を介するグルタミン酸毒性が関与しているとの仮説がある。申請者らは、NR2Cノックアウトマウスを繁殖させてフィラメントモデルによる中大脳動脈永久閉塞モデルで、24時間後の脳梗塞体積をNMDA受容体サブユニットNR2C遺伝子欠損ノックアウトマウスとワイルドタイプマウス(BDF1)で比較した。麻酔はハロセンの吸入により、虚血前、虚血後の局所脳血流量をレーザードップラーを用いて計測した。TTC染色評価による24時間後の浮腫補正後の脳梗塞体積は、ワイルドタイプマウスでは38.8+/-7.0%体側大脳半球体積(平均値+/-標準偏差、n=7)であったのに対して、NR2Cノックアウトマウスでは29.0+/-8.8(n=6)とノックアウトマウスで約26%小さいことが観察された。虚血後の直腸温度、局所脳血流量には2群間で有意な差がなかった。したがって、これらの結果はNR2Cノックアウトマウスにおける脳梗塞縮小傾向は、体温や脳血流量の変化など循環動態の差によるのではなく、NR2Cサブユニット遺伝子欠損によるNMDA型グルタミン酸受容体の機能変化による可能性を示唆する。今回ワイルドタイプとして用いたBDF1系統は、純粋な対照群とはいえず、次年度はNR2Cノックアウトマウスコロニーを拡充しリッターメイト(同腹兄弟)を用いて検討する必要がある。さらに、NR2Cサブユニット遺伝子欠損による脳梗塞縮小傾向のメカニズムを追究する予定である。
|