本年度は家兎を用いて棘上筋腱骨付着部2次元有限要素モデルを確立した。腱の中央部で線維方向に沿って上腕骨を含めて切り出し、hematoxylin-eosin染色を行った。得られた組織標本の顕微鏡写真を撮影し、拡大現像した。腱骨付着部の輪郭をトレースして、Mentat II(ver.3.3.0)上でプロットし、2次元有限要素モデルを作成した。物性定数:骨、腱及び関節軟骨の物性定数は、文献値を用いた。物性定数は組織の変化にあわせて穏やかに変化していくと仮定し、5段階の傾斜をつけて、ヤング率及びポアソン比を連続的に変化させた。(線維軟骨モデル)。解析:文献値を参考に、モデル上で棘上筋腱骨近位部に16MPaの引っ張り荷重をかけ、von Mises stressの分布を、汎用有限要素解析ソフトウエアMarc(ver.k7.3)を用いて解析した。さらに、現在まで行なわれてきた有限要素モデルと比較するために腱と骨組織のみからなるモデル(腱モデル)を作成し、同様の解析を行った。 線維軟骨モデル、腱モデルともvon Mises stressは骨付着部関節面側に集中していた。その部位は臨床的に微小断裂の見られる部位に一致していた。さらに、骨付着部で腱の関節面側表面の20節点を選択しvon Mises stress値を比較すると、線維軟骨モデルの方が腱モデルより高値を示した。 本研究の解析結果は臨床所見とよく一致しており、我々の有限要素モデルは妥当なものであると考えられた。また、応力集中が微小断裂の原因になり得ることが示された。線維軟骨モデルと腱モデルの解析結果を比較すると、腱骨付着部における線維軟骨層の存在はむしろ応力を増加させる方向に働いていた。すなわち、関節面側の線維軟骨層が生体力学的な弱点になっている可能性があると考えられた。
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