本年度は変形性関節症(OA)軟骨における軟骨細胞のアポトーシス誘導に一酸化窒素(NO)が関与することの証明に主眼を置いた。ビーグル犬の膝関節前十字靭帯切離による実験的OAモデルを作成し、術後8週、16週で軟骨破壊の程度を光顕観察した。時間が経過するほど種々の程度の早期OA変化をきたしており、その組織グレードはDNA断片化を認識するTUNEL法陽性細胞の出現率と相関を示した。次に人工開節置換術時に採取したヒトOA軟骨において、行った組織化学においても、アポトーシス細胞と組織グレードはやはり相関関係を示し、透過型電子顕微鏡による観察においても典型的なアポトーシス像が確認された。以上より軟骨細胞のアポトーシスがOA軟骨破壊に関与していることが強く示唆された。OA患者から許可を得て採取した関節液中NO量は、血清中のNO量より有為に高値を示し、関節炎局所におけるNO産生の亢進が示唆された。次に、in situ hybridization法により、炎症時に誘導される誘導型NO合成酵素のmRNAをOA軟骨細胞が発現していることを確認した。さらに、NOの反応生成物であるperoxyn itriteが組織中の蛋白をニトロ化して生ずるnitrotyrosineに対する免疫染色では、特にOAの初期から早期にかけてOA組織グレードと強い相関を示しており、軟骨細胞死におけるNOの役割が裏付けられた。同時に採取した骨軟骨棘における、軟骨細胞分化の過程においても、肥大軟骨細胞は一部アポトーシスに陥っており、同様の手法によりこの過程にNOが関与することを証明した。
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