本研究は、ビタミンKの骨代謝における作用ならびにその発現の機構について、軟骨代謝の側面から生物学的さらには遺伝子工学的手法を用いて明らかにしようとするものである。 ビタミンKは軟骨細胞に特徴的なII型コラーゲンの合成能には影響をおよぼさないことが判明した。しかし、将来早期に骨化する胸骨のcepharic portionの軟骨細胞では、肥大軟骨細胞に特徴的なX型コラーゲンやAPaseの発現が抑制されていることから、ビタミンKは、軟骨細胞の肥大化や石灰化への分化を選択的に抑制する作用を有するものと思われる。これらの知見は、ビタミンKが、骨芽細胞に対して石灰化を促進して骨形成の方向に作用してゆくのとは逆の作用を、軟骨細胞に対して有することが明らかになった。 クローン化ヒト軟骨細胞(HCS2/8)に、hc-fosをhuman MT IIaおよびneomicin resistant geneとともにトランスフェクトと、G418セレクションを行うことにより3個のhc-fos陽性細胞株を得た。これらの細胞について、プロテオグリカン(PG)合成能の変化をタンパク質レベルと遺伝子レベルで検索した結果、hc-fos陽性の細胞では、ヒト軟骨型PGが合成されており、軟骨細胞としての特性が維持されていた。一方、カドミウム(Cd)の添加により、c-fosの過剰発現が誘導された。c-fosの過剰発現により、これらの細胞におけるPG合成量は経時的に減少し、Northern blot解析からもPGmRNAの発現量の減少が認められた。 ビタミンKが軟骨細胞の分化・成熟を制御する機構を介して、多くの疾患の病態の一つとして出現する骨塩量の変化に影響を与えていることが明らかになった。
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