研究概要 |
神経伝達物質や各種の液性因子の受容体は生化学的修飾を受けることにより,細胞内局在や生理活性が変化することが知られている。中でも,受容体タンパクのリン酸化酵素による調節はそうした修飾の中では主要なものであり,情報伝達の効率を短期的ないしは長期的に調節する際になんらかの本質的な役割を演じていることが推察されている。麻酔・蘇生学においては、安全な全身管理を行うために薬剤に対する反応性を予め予測することが不可欠であることから、麻酔に用いられる薬物の受容体リン酸化酵素に及ぼす影響を明らかにすることは大変有用である。平成11年度の研究では、代表的な受容体リン酸化酵素である、G protein-coupled receptor kinase-2に焦点を当て、全身麻酔薬などの薬物がこの酵素の活性及び細胞内局在にどのような影響を及ぼすのかを検討した。その結果、ラット脳組織より調整したシナプトゾーム分画において、吸入麻酔薬ハロセンはG蛋白共役受容体リン酸化酵素GRK-2を濃度依存的に細胞質分画から膜分画へと移動させることが、GRK-2に対する抗体を用いた生化学的実験により明らかになった。また、リコンビナントβ受容体を基質としたリン酸化実験により、ハロセンがGRK-2の酵素活性を本来の作用部位である細胞膜において増強することがわかった。これらの結果から、吸入麻酔薬ハロセンは脳組織においてβアドレナリン受容体などのG蛋白共役受容体に対して脱感作を促進することが推察された。平成12年度は、個体の年齢や病態などの要素がこの調節機構にどのような影響を及ぼすかを明らかにする予定である。
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