ラット脊髄シナプトニューロソームという前シナプスと後シナプスを含む神経伝達モデルを用いて、グルタミン酸放出の変化を調べた。シナプトニューロソ-ムはラット大脳皮質で広く用いられているが、脊髄シナプトニューロソームを用いている報告はなかった。最初に脊髄シナプトニューロソームも、グルタミン酸放出能を持つことを確かめた。グルタミン酸放出の定量は計画通り酵素蛍光法を用いた。グルタミン酸放出は塩化カリウム30mM、4アミノピリジン1mM、カルシウムイオノフォアを用いると、カルシウム依存性に起こることが分かった。更に、痛みの制御のために臨床的に用いられるアルファ2アゴニストであるクロニジンを用いると、用量依存性にグルタミン酸放出が抑制された。これは、ラット脊髄シナプトニューロソームでは初めての報告である。更に、蛋白リン酸化酵素C(PKC)のグルタミン酸放出に及ぼす影響を調べた。PKCは膜脂質であるリン脂質が分解されたときに出来るジアシルグリセロールによって活性化されるため、脂質情報伝達経路との関連を調べるのに適当だと考えたためである。PKCの活性化物質であるテトラデカノイルフォルボールアセテート(TPA)はラット脊髄シナプトニューロソームからのグルタミン酸放出を増強した。脊髄レベルでのTPAによるグルタミン酸放出の増強を報告するのは、我々が最初である。本年度の研究により、ラット脊髄レベルでPKCがグルタミン酸放出を増強することが分かり、そのグルタミン酸放出は鎮痛物質の一種であるクロニジンによって抑制されることが分かった。これは、痛みの伝達経路に蛋白リン酸化酵素Cが関与することを証明すると同時に、その上流にある、脂質情報伝達経路が関与することも示唆する。以上の結果はAnesthesia and Analgesia誌に報告した。引き続き、痛みと脂質情報伝達の関連を研究する予定である。
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