低体温療法が虚血性神経細胞障害に対し有効な治療法であることが報告されてきた。しかし、低体温療法のtherapeutic time windowは短く、全脳虚血症例では極めて早期より低体温療法を開始しないと効果は期待できない。現在、臨床で32-33℃まで体温を低下させるには約30分を要し、より急速な脳冷却法の開発が必要である。本研究は頭蓋底を経副鼻腔的に冷却し、ウイリス動脈輪を介して動脈血温を下げることで、急速を低下させることを目的としている。本年度はジャービルを用い、大脳皮質及び海馬CA1領域のDC-ポテンシャル、頭頂部硬膜外温、大脳皮質脳血流量を同時に測定しながら、全脳虚血を負荷し安定にデータが取得できるシステムを確立した。また、本実験を試行する前の予備実験として一般的な全身冷却を施行し、本計測システムで軽度低体温療法による神経細胞保護効果が観察できることを確認した。硬膜外温を37℃に設定した場合、約1分15秒で神経細胞は脱分極を開始した。虚血を3分間持続すると神経細胞に虚血性障害が認められるようになり、5分虚血ではほぼ全例の海馬CA1領域に重度の障害を認めた。血流再開後、脳血流量は約1分で虚血前値に回復し、神経細胞は再環流後約3分で再分極した。軽度低体温療法群(34℃)でも同様の時間経過で脳血流量やDC-ポテンシャルは推移したが、神経細胞に虚血性障害を認めなかった(5分虚血)。本年度の研究により、計測システムが正常に作動し、低体温療法の効果を正しく観察できることが確認された。これにより、一般的軽度低体温療法と急速軽度冷却法の効果を比較することが可能になり、現在研究を遂行中である。
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