【背景と目的】頭部外傷後の二次的傷害過程のひとつに、興奮性アミノ酸放出によるNMDA受容体の活性化、細胞内カルシウムの増加による蛋白分解酵素の活性化の関与が挙げられる。本研究は、ラット重量落下頭部外傷モデルを用い、神経細胞骨格蛋白のひとつであるmicrotubule-associated protein2(MAP2)の外傷後急性期の障害について検討した。【方法】Wistar系雄性ラットを、イソフルラン(Iso)・酸素麻酔下に挿管・人工呼吸(PaCO_2=35-40mmHg)を行い、動静脈にカニュレーションした。脳定位装置に固定、左半球側に開窓した。血圧、血液ガス、血糖、頭蓋温を測定後、硬膜上に置いたアルミ片に、高さ30cmから5.7gの重りを落下し外傷作成後に閉頭、覚醒、抜管した。抜管後6時間目の神経所見をスコア化(0-20点、0:正常、20:死亡)した後、ホルマリンによる固定後、脳を摘出、MAP2免疫染色用標本を作製した。顕微鏡による標本観察で、外傷側と非外傷側の神経細胞とMAP2染色性を評価した。【結果】外傷後6時間目の神経スコアは3-5点であった。MAP2免疫染色で外傷周辺部皮質と外傷部直下の海馬に正常神経細胞数の減少とMAP2免疫染色の低下がみられた。【考察】外傷後6時間目の急性期にMAP2染色を指標とする神経細胞骨格蛋白の障害が起こっていることが明らかになった。今後は、人工呼吸設定を調節し、PaCO_2を変化させることによる脳細胞外pHの変化がこの障害の程度をどのように修飾するか、頭蓋内圧、脳血流などの生理学的因子とあわせて検討していく予定である。
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