【背景と目的】前年度の結果より、ラット頭部外傷モデルで頭部外傷6時間後の海馬において、神経細胞骨格蛋白のひとつであるmicrotubule-associated protein 2(MAP2)の減少が明らかになった。その原因として外傷後の興奮性アミノ酸放出によるNMDA受容体の活性化、細胞内カルシウムの増加による蛋白分解酵素calpainの活性化の関与が想定される。本研究は、calpain inhibitor(CI)の外傷後のMAP2減少に対する保護効果について検討した。 【方法】Wistar系雄性ラットを用い、isoflurane麻酔下に左半球に開頭し、重量落下法で頭部外傷を作成した。ラットを無作為にsham群(開頭のみ)、非治療群、CI投予群に分類した。CI群はCIを(非治療群では生食)外傷作成15分前より外傷6時間後まで持続静注した。外傷6時間後に脳を摘出し、MAP2免疫染色とwestern blottingによるMAP2測定を行った。 【結果】外傷6時間後において非治療群、CI群ともに外傷部直下の海馬に正常神経細胞の減少とMAP2染色性の低下を認め、両群に差はなかった。Western blottingではsham群を100%とした場合、非治療群13±9%、CI群28±33%と有意に低下したが、両群間に差はなかった。 【結論・考察】CIを外傷作成前から投与したが、MAP2減少に対する明らかな保護効果はみられなかった。これまでの報告では、細胞骨格蛋白の障害を指標としたCIの保護効果は一定しない。モデル、CIの種類、投与経路などの相違が原因と考えられるが、calpain以外の蛋白分解酵素の関与も否定できない。今後、興奮性アミノ酸神経毒性説において、蛋白分解酵素の活性化という障害因子の関与についてのさらなる検討が必要である。
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