研究目的は、モノクロタリン誘発性肺高血圧における血管病態を解明することである。 モノクロタリンによる肺高血圧の機序として、血管拡張作用の減弱または血管収縮機転の強弱が起こっていることが予測される。そこでまず血管拡張作用により血管平滑筋のトーヌスを調節している因子であるATP感受性カリウムチャンネルやフォスフォジエステラーゼの関与を検討することにした。 雄性ウイスターラットにモノクロタリンを皮下注し、3週間後に肺高血圧を発症しているのを確認した。そのモノクロタリン誘発性肺高血圧ラットの肺動脈を取り出し、2〜3mmの血管リングを作製した。マイクロイージーマグヌスを用い、酸素95%二酸化炭素5%で通気したKrebs-Henseleit液中で最適の静止張力を与え定常状態をえた。ノルエピネフリンで収縮させた肺動脈リングに、新しいATP感受性カリウムチャンネル作動薬であるJTV506を段階的に投与し容量反応曲線を描き、NOS阻害薬の前投与の影響も調べた。またフォスフォジエステラーゼV阻害薬であるZaprinastやDipyridamoleも段階的に投与し、それぞれコントロール群と比較した。結果は、JTV506は10^<-5.5>M以上の濃度でコントロール群に比べ有意に血管拡張作用を示し、その増強作用はNOS阻害薬により消失した。またZaprinastやDipyridamoleも血管拡張作用を示したが、コントロールとの差は認められなかった。 これらの実験結果より、モノクロタリンはフォスフォジエステラーゼV阻害薬の感受性は変化させなかったがATP感受性カリウムチャンネルへ何らかの作用をきたしていることが考えられ、その機序にNOが関与していることがうかがわれる。臨床的に考えるとATP感受性カリウムチャンネル作動薬やフォスフォジエステラーゼV阻害薬の肺高血圧への治療薬としての可能性が示唆される。
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