心筋スタニング時の効果的な予防法および治療法は未だ確立されていない。われわれはこれまでに、心筋スタニングにおけるセボフルランのATP感受性Kチャネルを介した心筋保護作用を報告した。一方MCI-154は新規のCa感受性増強薬で、虚血後の心筋収縮能やイソフルラン麻酔時の心筋収縮能を改善するといわれている。今回は、セボフルランとMCI-154の併用が心筋スタニングにおける心筋収縮能に与える影響について検討した。 (方法)基礎麻酔後、雑種成犬に全身および冠血行動態測定用の装置をつけた後、セボフルラン単独群、MCI-154単独群、セボフルランとMCI-154の併用群および対照群の4群(それぞれn=5)に分けた。心筋スタニングは左前下行枝の15分間閉塞による虚血と90分間の再潅流で作成した。MCI-154(0.1μg/kg/min)は再潅流5分前から持続静脈内投与し、セボフルラン(1MAC)は虚血15分前から30間、再潅流直前まで吸入させた。全身および冠循環動態に加えて、心筋収縮能を局所心筋短縮率(%SS)で評価した。 (結果)再潅流90分の%SSの回復率は、対照群で33.3±4.3%であったのに対し、セボフルラン単独群では75.9±3.1%、MCI-154単独群では76.4±2.9%で、対照群に比べ有意に高かった。併用群の再潅流90分の%SSの回復率は100.6±6.0%で、対照群のみならずセボフルラン単独群およびMCI-154単独群と比較しても有意に高かった。 (結論)セボフルランあるいはMCI-154の単独投与は心筋スタニングにおける心筋収縮能を有意に改善するものの、その効果には限界があった。これに対して、セボフルランとMCI-154の併用は虚血再潅流後の心筋収縮能を完全に回復させ、臨床におけるセボフルラン麻酔下でのMCI-154投与の有用性が示唆された。
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