本年度は、生体水分量特に間質浮腫を簡便に把握するための非観血的な指標として生体インピーダンス法に着目し、これを用いて体外からの体内水分状態の把握を試みた。本法は、完全に非侵襲的な方法であるために、臨床的に容易に用いることの出来る方法である。そこで対象として、浮腫形成がもっとも顕著であり、その制御が治療上の主要な因子となりうる、小児の体外循環下心臓手術患者を用い、周術期における変化を観察した。生体インピーダンス法による組織間インピーダンスの定量的把握は、容易、安全かつ確実に測定が出来、体内外の水分移動を正確に反映した。例えば体外循環を用いない手術では手術前後でのインピーダンスの変化が軽微であるのに対し、体外循環を用いた手術後には平均で20%程度の上昇すなわち体内水分量の増加が起きていることが判明し、これまで指摘されてきた体外循環による浮腫形成の存在を定量的に明らかにすることが出来た。さらに、手術後経過の観察からは、予後良好群では急速にインピーダンスの手術前値への回復を認めたのに対し、予後不良例では低値が持続していた。このことは、浮腫の持続が不良予後と強く関連していること、浮腫の定量的評価によって重症度の定量的評価が可能になることを示唆するものであった。一方、臓器障害を定量的に評価するための臓器不全スコア、組織酸素代謝指標についても、同様の患者群を用いて測定しその評価基準について明らかにすることが出来た。浮腫形成と臓器不全は、互いに影響しあいながら悪循環を形成しつつ不良予後につながっていくと考えられるために、この関連性を把握することが重要と考えられる。よって次年度は浮腫形成と臓器不全の悪循環の形成機転を解明し、これの制御が患者予後の改善に影響する可能性について検討する予定である。
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