研究概要 |
われわれは神経栄養因子(NT)が前立腺癌における重要な腫瘍増殖因子であろうと考え,術前未治療前立腺全摘群とネオアジュバント療法併用前立腺全摘群におけるNTとその受容体(NT-R)の発現について免疫組織学的に検討した。NTであるNGF,BDNF,NT3,NT4/5とNT-R(TrkA,TrkB,TrkC,p75NTR)は良性及び悪性の前立腺上皮細胞に局在していた。両群において神経栄養因子は前立腺癌細胞に比較的高頻度に陽性であり,その発現率に有意差は認めなかった。一方NT-RはTrkAとTrkCは両群間に差はなかったが,ネオアジュバント療法併用群では未治療群と比較してTrkBの発現率が有意に低く,p75NTRは逆に有意にその発現率が高かった。またRT-PCR法にて各神経栄養因子受容体mRNA発現を検討したが,PC3およびLNCaP培養前立腺癌ではTrkA,TrkBおよびTrkCの発現を認めたがp75NTRの発現は認めなかった。前立腺癌組織ではいずれの受容体もその発現が確認された。さらに培養前立腺癌細胞においてNT-Rによる細胞内シグナル伝達について検討した。LNCaPとPC-3を無血清培養液中で培養後に各NTを添加し特異的抗体を用いてWestern-blottingによりリン酸化Aktの解析を行ったところLNCaPとPC-3共に速やかに細胞内の燐酸化Akt増加を認めた。AktはPI3の下流に存在する主要な生存促進因子と考えられていることより,NTは前立腺癌細胞においてNT-Rと結合することによって細胞内の生存シグナルを伝達していると考えられた. 以上の結果よりアンドロゲン除去後の前立腺癌細胞は神経栄養因子の存在下にその特異的受容体を介してautocrine的に作用し,生存あるいは増殖に促進的に作用することにより細胞死を逃れている可能性が示唆された。
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