平成11年度の研究において、我々は多数例(105例)の腎細胞癌におけるc-Met癌遺伝子の変異について解析を行った。検討した腎細胞癌には組織型として最も多く見られる淡明細胞型腎細胞癌に加え、これまでc-Met遺伝子の異常が欧米で明かとなった乳頭状腎細胞癌、さらに乳頭状腎細胞癌が多発する透析腎に発生した検体を含めた。結果として、一例で欧米で発見されたのと同様の変異を、また1例で新たな変異を検出し得た。しかしながら、後者の変異はin-vitroの系ではc-Metの活性化を引き起こさず、非常にまれなpolymorphismの可能性が強いと考えられた。以上のことから、米国ではc-Metの変異が乳頭状腎癌の約10%に見られるとされているが日本ではその頻度はさらに低く、これは異なったサブタイプの乳頭状腎癌が多いためか、または別のc-Metの活性化機構が作用している可能性が示唆された。さらに我々はc-MetとそのリガンドであるHGFと、腎細胞癌における癌抑制遺伝子であるVHLの相互作用を検討した。具体的には、HGFによりc-Metを介して腎細胞癌細胞株からVEGFが誘導されることを示し、この誘導がVHLにより抑制されることを明らかにした。VEGFは腎細胞癌の血管新生に関わっているとされ、癌治療のターゲットとしても注目されつつあり、これらの細胞内相互作用をさらに解析、理解することが、新たな治療の糸口となると期待される。 これらの研究と平行して、我々は腎細胞癌におけるVHL癌抑制遺伝子の機能解析を進めてきたが今年度は新たにVHLと細胞内で相互作用するといわれている、PKCおよびSp1についての研究を行い、それぞれ論文発表した。
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