平成11年度の研究で日本の腎細胞癌におけるc-Metの変異は非常にまれであることを明らかにした。平成12年度の研究では、c-Met自体の遺伝子変化は認められなくとも、腎細胞癌においてはc-MetやそのリガンドであるHGFが過剰発現しており、さらに、多くの癌腫においてこの系が癌の増殖、浸潤、転移に影響を与えているという事実から、腎細胞癌におけるHGFおよびc-Metの関与についてさらに研究を進めた。まず、HGFの刺激により、腎細胞癌培養株において、増殖の促進が見られることを明らかにし、さらに血管新生因子であるVEGFが発現誘導される事を示した。これらの現象は生体内の腎細胞癌の増殖、浸潤転移にHGFが関っていることを示唆するものであり、この系を抑制することは腎細胞癌の治療に結びつく可能性があると考えられた。そこでこれらの系を抑制するため、腎細胞癌の癌抑制遺伝子であるVHLならびにHGFのアンタゴニストであるNK4をアデノウイルスをベクターとして発現する系を構築した。この系を用いて、HGFによる細胞増殖およびVEGF誘導がVHLにより抑制されることをin vitroの系で示した。さらにNK4を用いての抑制効果は単純なプラスミドを用いた発現系では充分でなかったため、アデノウイルスを用いて過剰発現させ、検討を加える事とした。将来的には臨床応用を目指しin vivoでの抑制効果について解析したい。 さらに、これらの研究と平行して我々は腎細胞癌におけるVHL癌抑制遺伝子の変異とその機能解析を進めてきたが、今年度はVHL病の家系における遺伝子変異について日本での解析結果をまとめて発表し、さらに染色体3番短腕に存在すると推測されている別の癌抑制遺伝子とVHLの変異との関連を多数例の腎細胞癌を用いて解析し発表した。
|