近年、わが国における卵巣癌の発生数は増加しており、その予防やスクリーニングの重要性が認識されてきた。しかし、多彩な組織型を有することが特徴の卵巣癌において、組織型ごとの予防やスクリーニングを念頭に置いた分子レベルの研究は未だ不十分である。 本研究では、卵巣癌のうち類内膜癌と明細胞癌という組織型に焦点を当て、両癌との合併頻度が高く前癌状態の性格を有すると考えられている卵巣子宮内膜症(以下、内膜症)に着目した。内膜症と卵巣癌の合併例と、内膜症から卵巣癌への移行が組織学的に確認された移行例の28例を対象とした。これらは、内膜症から両組織型の卵巣癌が発生したと考えられ、内膜症が腫瘍性格を有する可能性の高い症例である。まず、癌抑制遺伝子産物p53、内膜症の発症に関与する解毒酵素GST-π、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体について、内膜症と卵巣癌の部位に関する免疫組織学的検討を行った。次に、卵巣癌発症に関与していることが明らかにされている遺伝子不安定性について、内膜症と卵巣癌のDNAを用いマイクロサテライト不安定性の解析を行った。現在までのところ、内膜症から両組織型の卵巣癌が発生することを証明し得る免疫組織学的所見や遺伝子不安定性は見い出されていない。 今後は、分子レベルでの検討項目を追加し、内膜症から両組織型の卵巣癌が発生するメカニズムの解明を目指したい。免疫組織学的あるいは分子生物学的変化が認められた場合は、その変化を卵巣癌を合併していない内膜症患者においても検討し、卵巣癌の予防やスクリーニングに応用できるよう研究を展開していきたい。
|