今年度は、まず種々の分子(イオンや内分泌撹乱物質)の精子運動性に与える影響の観察を行った。ヒト精子をパーコール・swim-up法で処理して運動良好精子を得た後、KCIあるいはビスフェノールA(BPA)を添加後、培養を行った。培養前および培養開始後幾つかのタイムポイントで、あるいは各種分子の濃度別に、コンピュータ精子運動解析装置を用いて精子の運動性を測定した。KCI添加群では、50mMを境により高濃度では精子の運動性は低下し、従来の報告を追試し得た。また時間経過による影響については、現在実験を継続中である。 BPAは、エストロゲンリセプターを介して、その作用を発現することが知られているが、1fmから1μMまでの種々の濃度における精子運動性に与える影響を検討中である。現在までに得られたプレリミナリーな結果では、検討したいずれの濃度においても、どのタイムポイントにおいても対照群と比べて有意な運動性の低下あるいは亢進も認められていない。さらに濃度の変化を大きくして、影響を確認する予定である。 最後にヒト精子に発現していると考えられるイオンチャネルについて、mRNAレベルでの発現をみるためにRT-PCRの条件を設定中である。すでに純化した精子からtotal RNAを採取してRT-PCRを行うことには成功しており、現在は目的とする分子のmRNAのcDNAに対するプライマーを設計し、PCRの至適条件を設定しているところである。これが設定された段階で、異なる背景を持つ精子について、定量的RT-PCRを行うことも計画している。
|