研究概要 |
子宮頚癌の発生を制御するために、その発生に深く関与しているヒトパピローマウイルス(HPV)の子宮頚部への感染を阻害できるワクチン開発が期待されている。これまでの研究で我々は、HPVのキャプシドを形成しているL2蛋白質の108-120アミノ酸の領域がHPV感染に重要な領域であることを示してきた。しかもこの領域は、子宮頚癌と関連が深い十種類以上ある粘膜型HPVのいずれの遺伝子型にも共通している。そこで本年度は、この領域と同じアミノ酸配列の合成ペプチドのHPVワクチン製剤としての可能性と複数の遺伝子型のHPVに対するワクチン効果を検討した。ワクチンの効果判定には、免疫動物から採取した血清や膣分泌液中に含まれる抗体が持つ中和活性(HPV粒子の培養細胞への感染を阻害する活性)測定系を用いた。 16型L2 108-120アミノ酸合成ペプチドをBalb/cマウスに皮下投与し得られた血清中に、HPV16型および6型に対する中和抗体(中和活性を持つ抗体)が出現することを確認した。HPV感染粒子として、我々独自に開発した方法で作製したPseudovirus16型、6型を用いた。またこの人工的な感染粒子の代わりに、尖形コンジローマから抽出・精製した実際のHPV11型粒子による感染系でも同程度に中和抗体が確認された。複数の遺伝子型のHPV(6,11型)の感染も阻害できた。更に,膣分泌液中の中和抗体に誘導するためにBalb/cマウスも鼻腔内に108-120アミノ酸ペプチドを吸入する経鼻免疫を試みた。マウスの窒洗浄液中にHPVペプチド特異的な抗体(IgG, IgA)が誘導され、Pseudovirus16型に対する中和活性も確認された。ペプチドワクチンでは、MHC分子により抗原認識されないことがある。今後はMHCクラスの違う系統のマウスにも中和抗体を誘導できるようにペプチドの一部を改変することで、各個体に対応したワクチンを目指す。
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