目的:慢性低酸素状態下で胎児は、大脳や心臓、副腎といった生命維持に関する臓器の血流が増加し、腎臓や消化管などの血流が減少する、いわゆる血流再分配がよく認められる。しかし、その機序に関して解明されていない。本研究は、ET-1およびANPが実際に胎仔血流再分配を起こすことができるかどうかを確かめることを目的とする。 方法:在胎130日のサフォーク種妊娠羊4頭を用いて慢性胎仔実験モデルを作製し、術後2日以上経過した後、胎仔頚静脈よりET-1(5ng/Kg/min)(n=2)あるいはANP(0.3μg/Kg/min)(n=2)を1時間持続投与した。胎仔各臓器の血流量はcolored microsphere法により測定し、microsphereはTRITON社製DYE-TRAKを用いた。 結果:ET-1投与により、脳血流は198±59(mL/100g/min.)から257±103へ約30%増加し、特に橋、延髄での増加が著しかった。心臓は241±142から322±164へと約40%増加した。また肝臓、脾臓では約50%減少し、肺、副腎、腸管、腎臓では10〜30%減少した。一方、ANP投与により、脳血流は約40%増加し、特に小脳、橋、延髄での増加が著しかった。心臓は約30%増加、副腎は約30%増加した。肺は約40%減少した。その他の臓器では、わずかながら増加したが、すべて10%以内であった。 結論:ET-1投与によりvital organである脳、心臓での血流量が増加し、それ以外の臓器では減少した。一方、ANP投与では肺を除いた各臓器の血流量増加を認めたが、特に脳、心臓、副腎の増加が著しかった。ET-1、ANPどちらもいわゆるVital Organの血流量増加を認めたが、非Vital Organへの反応は異なる可能性が示唆された。来年度は実験数を増やし、再検討する。
|