婦人科悪性腫瘍の浸潤や転移におけるシステインプロテアーゼ(カテプシンB、D、H、L)および、その生体内インヒビターであるシスタチンCの動態を検討するために、臨床検体を用いて以下の実験を行い結果を得た。 1、当施設で治療され同意の得られた卵巣癌、子宮体癌及び子宮頚癌症例から得られた臨床検体を用いて、カテプシンB、D、H、Lの組織中の局在と活性をそれぞれの抗体を用いたWestern blotting法、免疫組織染色法によって検討した。 免疫組織染色法の結果、悪性腫瘍症例の組織では抗ヒトカテプシンB抗体による染色性、局在が認められ、対照とした良性腫瘍症例の組織では染色性は認められなかった。また、抗ヒトカテプシンD、H、L抗体では、染色性は認められなかった。同様の結果がWestern blotting法によっても確認された。 2、治療前の患者血清を用いて、その血清中のシステインプロテアーゼおよびインヒビターの濃度をEIA法により測定し検討した。 その結果血清中システインプロテアーゼの濃度は良性腫瘍患者および悪性腫瘍患者において上昇していないものの、インヒビターであるシスタチンCの濃度は良性腫瘍患者に比べて悪性腫瘍患者で有意に上昇していることが確認された。 3、ヒト卵巣癌培養細胞(TYK-nu)を用いたinvasion assay法により、シスタチンCおよびカテプシンB阻害剤による浸潤抑制能を確認した。 その結果培養細胞の浸潤能はシスタチンCおよびカテプシンB阻害剤により濃度依存性に抑制されることが確認された。 以上の結果より、婦人科悪性腫瘍においてカテプシンB-シスタチンC系の活性の亢進が認められ、カテプシンBの阻害により悪性腫瘍の浸潤能を抑制できる可能性が示唆された。 現在は原発巣と転移部位における免疫組織染色性の比較、また実験動物を用いた転移作成モデルを作製し、シスタチンCおよびカテプシンB阻害剤の転移抑制能を検討中である。
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