臨床例での検討から、腫瘍壊死因子(TNF-α)が、妊娠中毒症やIUGRの病態に関与している可能性が次第に高まってきた。またTNF-αは虚血再灌流傷害(IR)のメディエーターとしても重要な役割を担っていることが知られている。我々は最近、ラット子宮胎盤循環のIRによりIUGRが発症することを実験的に示し、さらにIR後に持続的な子宮血流量の減少が生じることから、この現象が本モデルでのIUGRの発症に至る子宮・胎盤の虚血を招いている可能性を提示した。従って、IRの主要なメディエーターであるTNF-αは、本モデルのIUGR発症にも重要な役割を担っている可能性が高いものと考えられた。そこで本年度の研究では、IRにより惹起されたラットIUGRモデルの、IUGR発症機序におけるTNF-αの関与を明らかにすることを目的とし、TNF産生阻害剤投与によるIUGR発症抑制効果を検討した。 既報の方法により、ハロセン麻酔下に妊娠17日目のS/Dラットに対して片側子宮角子宮胎盤循環の30分間の虚血(IR)を行い、妊娠21日目に帝王切開により胎仔・胎盤を娩出し、同側子宮角に子宮内胎盤発育遅延(IUGR)が発症していることを確認した。そして、この妊娠17日目のラット子宮胎盤循環のIRに先だってTNF産生阻害剤投与を行うと、妊娠21日目のラット胎仔IUGRの発症が抑制されるという実験結果を得た。以上より、本モデルにおけるIUGR発症機序においてTNF-αが関与している可能性が示唆された。 また、次年度の実験計画のため、子宮胎盤循環IR前後のTNFの血中濃度の変化を予備的に検討したが、本モデルでは虚血直後にTNF-αの有意な増加がみられるものの、再灌流後は有意な増加は見られていない。そこで、TNF-αがどのようにIUGR発症に関わるのかに関して、TNF-αと関連するサイトカインについても測定し、本モデルにおける血流減少とIUGR発症の機序を検討する予定である。
|