大脳基底核による嚥下運動の調節機構を検討した。基底核からの下行性経路として基底核-中脳-脳幹網様体系が主要であることから、中脳の脚橋被蓋核(PPN)および赤核後領野(RRF)が脳幹網様体の嚥下パターンジェネレータを調節し、基底核はさらにこれら中脳のニューロンへの入力を通じて嚥下運動を調節しているという仮説をたてた。今回は、この仮説のうち基底核-中脳系の情報伝達様式について検討した。(1)基底核出力核である黒質網状部(SNr)からPPNのコリン作動性ニューロン、グルタミン酸作動性ニューロンおよびRRFのドパミン作動性ニューロンへの入力の有無を明らかにし、(2)その入力に関わる神経伝達物質および受容体ついて調べた。実験にはラット(9-16日齢)のin vitroスライス標本を用いた。SNr、PPN、RRFが同一スライスに含まれるようにした。SNrの電気刺激に対するPPN、RRFのニューロンの電気応答をホールセルパッチクランプ法にて解析した。PPN、RRFのニューロンにおける神経伝達物質の同定は、膜の電気生理学的特性、免疫組織化学染色およびシングルセルRT-PCR法で行った。その結果、SNrからPPNのコリン作動性ニューロン、グルタミン酸作動性ニューロンおよびRRFのドパミン作動性ニューロンの全てに対しGABA抑制性入力がある、(2)PPNのニューロンへの入力はGABAA受容体を介し、RRFのニューロンへの入力はGABAA受容体とGABAB受容体の両方を介すること、の2点を明らかにした。PPNおよびRRF由来のアセチルコリン、グルタミン酸、ドパミンが脳幹網様体の嚥下中枢に作用しているとすれば、今回の結果は、基底核がこれらの作用を抑制性に制御することで嚥下運動の調節を行っている可能性を示唆している。中脳-脳幹網様体系の情報伝達様式の解明が今後の課題として残った。
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