研究概要 |
鼓膜穿孔の閉鎖過程においては様々な増殖因子が関与していることが、今まで報告されてきたが、われわれも穿孔閉鎖過程に関与するKGF、basicFGF、TGFαの上昇が生じることを示した。創傷治癒において免疫力の低下している状態や糖尿病患者では創傷治癒の遅延することがいわれているが鼓膜穿孔治癒過程においても同様のことがいえるのではないかと考えた。免疫力を低下させる薬剤としてステロイド剤が広く知られており、われわれはステロイド剤を連続投与して免疫力の低下した状態を作成して、ステロイド剤の投与が皮膚同様に鼓膜穿孔閉鎖の遅延を起こすことを明らかにし、ステロイドの投与によりそれらの増殖因子の抑制が生じ、それが鼓膜穿孔閉鎖の遅延につながることを分子生物学的に考察し発表した。(2000年米国基礎耳科学会、現在投稿中)それらの知見をふまえて、中耳炎や外傷によって生じた鼓膜の穿孔が非観血的に閉鎖するように、その治癒の遅延したモデルを用いて外部から増殖因子を投与して、その再生が促されるかどうか、またどの増殖因子を用いるとより効果があるのか、検討した。特に鼓膜穿孔治癒過程に関与するKGF,basicFGF、TGFαをステロイド投与した治癒の遅延したモデルに、それぞれ単独に鼓膜穿孔縁に塗布して増殖因子の効果を検討した。増殖因子の塗布した群は増殖因子の塗布しない群に比較してそれぞれ増殖している細胞の数は統計学的に有意に高値を示した。しかし各増殖因子間での差は認められなかった。(2001年米国基礎耳科学会で報告、投稿予定)今後は増殖因子を組み合わせてより効果が得られるか検討しようと考えている。
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