蝸牛障害の観点から聴神経腫瘍における聴力保存手術の適応を確立できるか否かを目的として、蝸電図による他覚的蝸牛機能の評価を行った。蝸電図の指標として、蝸牛機能を直接反映する蝸牛マイクロフォン電位(CM)を用いた。中頭蓋窩法による聴力保存手術施行例を対象とした。これらの症例において、CM検出閾値のほか、腫瘍径、術前聴力(平均聴力レベルと語音弁別能)、聴性脳幹反応(ABR)所見、蝸牛神経活動電位(AP)の検出閾値と術後聴力との関係を調べた。全体の聴力保存率は59.1%であり、CM検出閾値、術前聴力、ABR所見、AP検出閾値は術後聴力と有意な相関を有した。特にCM検出閾値が40dBnHL以下の値を示した例では正常の蝸牛機能もしくは軽度の蝸牛障害を有すると考えられたが、これらは術後有用聴力が得られた例の76.7%を占め、他の指標に比べ高い割合で聴力保存を予測しえた。一方、腫瘍径は術後聴力との関係が得られなかった。聴力改善例におけるCM検出閾値は、純音聴力レベルより良好であった。この所見は、聴力レベルの低下に蝸牛神経障害が関与することを示すものであり、神経伝導障害が手術により解除されることにより、術後聴力が改善すると考えられた。これらの結果から、CMにより評価される蝸牛障害は、聴力保存のみならず聴力改善の良好な指標となることが判明した。さらに、感音難聴の一モデルとしての聴神経腫瘍の蝸牛病態を検討することで、循環障害、ウイルス感染、遺伝子異常などにより生じる諸種の感音難聴の蝸牛病態の解明においても有用な知見が得られることが期待される。
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