突発難聴にて発症する聴神経腫瘍において、難聴のメカニズムを解明する目的で、蝸電図による他覚的蝸牛機能の評価を行った。蝸電図の指標として、蝸牛機能を直接反映する蝸牛マイクロフォン電位(CM)を用いた。 突発難聴発症の聴神経腫瘍の代表的な聴力像は、谷型である。聴神経腫瘍の聴力図における谷型聴力像の成因を評価する目的で、聴神経腫瘍を有する15耳(腫瘍耳)と聴神経腫瘍を認めない10耳(非腫瘍耳)の谷型聴力像症例の蝸電図所見を比較した。腫瘍耳の蝸電図CM検出閾値は、正常もしくは非腫瘍耳と比較して低い値を示した。1kHzにおけるCM入出力曲線は、腫瘍耳では15耳中10耳が正常であったが、非腫瘍耳で正常であったものは10耳中1耳のみであった。これらの所見は、腫瘍耳の蝸牛機能は、正常もしくは軽度障害であることを示している。従って、谷型聴力像にみられる中音域の聴力レベルの低下は、腫瘍による蝸牛神経障害であることが推察された。 一方、突発難聴発症の聴神経腫瘍の中には、高度難聴を呈する症例がある。5周波数(250、500、1000、2000、4000Hz)の平均聴力レベルが60dB以上の急性高度感音難聴例23例を対象に検討した。これらの聴力予後は、治癒1例、著明回復2例、回復1例、不変19例であり、突発性難聴と比較して不良であった。蝸電図施行例は13例であったが、これらの蝸電図CM検出閾値から、ほとんどの症例で中等度以上の蝸牛障害が認められた。従って、急性高度感音難聴を呈する聴神経腫瘍の聴力予後が不良である理由として、中等度以上の不可逆的な蝸牛障害が一因と考えられた。 以上により同じ突発難聴にて発症する聴神経腫瘍においても、谷型の例と高度難聴の例では、難聴発症のメカニズムに相違が認められることが判明した。
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