近年、原因不明であったベル麻痺(特発性顔面神経麻痺)の発症に、単純ヘルペスウイルス1型(以下HSV-1)再活性化が関与していることが明らかとなってきた。しかし、現在のところベル麻痺のモデル動物は存在しないためHSV-1再活性化による麻痺発症の詳細な機構は不明である。そこで、われわれはベル麻痺の臨床像に類似した、HSV-1再活性化による顔面神経麻痺モデルの作製を試みた。Balb/cマウスの耳介にHSV-1を接種し、初感染後に膝神経節においてHSV-1が潜伏感染することを明らかにし、さらに免疫抑制と局所刺激等を加え、HSV-1の再活性化を誘発し麻痺を発症させた。膝神経節におけるHSV-1の潜伏感染は共生培養法を用いて証明し、さらにLATS遺伝子発現の証明を行っている。免疫抑制は、マウスのT細胞レセプタ-抗体(抗CD3ε2C11抗体)をハイブリド-マより精製し、細胞性免疫の選択的抑制を行った。局所刺激は初回接種部位である耳介皮膚を擦過した。以後、連日全身状態と髭や鼻翼の動き、また瞬目反射にて顔面運動を詳細に観察した。また同時に再活性化刺激後10日目に膝神経節を含む側頭骨内顔面神経を採取し、PCR法を用いてHSV-1DNAの発現頻度(再活性化の頻度)を検討した。その結果、HSV-1再活性化による顔面神経麻痺モデルの作製に成功し、麻痺発現の頻度は15%、再活性化の頻度は66.7%であった。今回の検討結果より麻痺発現には免疫抑制と局所刺激の双方が必要であり、また再活性化したHSV-1が増殖した結果、神経障害がある閾値を超えた時点で麻痺が発現するものと推察された。今後は電子顕微鏡を用いて、神経障害の機序をより詳細に検討していく予定である。
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