研究概要 |
ヒト上咽頭の検討は、各成分(性質)の分布地図を作成することである。上皮と、腺の分布については、先に報告している。今回(平成11年度)は、リンパ球の分布について検討した。周知のとおり、上咽頭はワルダイエルの咽頭輪の一部であり、感染の第一門戸としての働きを有し、アデノイドに代表されるように、豊富なリンパ組織を持つ。そこで、Tリンパ球、Bリンパ球の分布を調べるために、CD45RとCD20を用いて免疫染色を行った。上咽頭において、Tリンパ球は90.4%でBリンパ球は9.6%であった。また、各部位(各壁)でその分布は異なっていた(100回日耳鼻で口演)。この検討は、アデノイドで多くの報告があり、今回検討した上咽頭は、アデノイドとは異なりT細胞優位であった。この差は、ヒトの年令における局所免疫の変化が考えられる。このTリンパ球が優位である上咽頭で、さらにCD4,CD8陽性細胞の分布を検討した。各部位での差は認められるが、CD8陽性細胞が多かった(投稿準備中)。 また、上咽頭での接着因子に着眼し、E,Nカドヘリンとβカテニンの分布様式も検索した(口腔咽頭で口演)。この検討は、上咽頭に発生する上咽頭癌が転移を示しやすく、この原因に上咽頭自体の組織特異性があるのではないかと考えたからである。神経系の起源に関与するNカドヘリンが、上咽頭の粘膜上皮に存在していた。このことは、上咽頭の粘膜の発生に関連し、また、上咽頭癌でも陽性部分があることから発癌の要因に何らかの関わりが存在するかもしれないと考察した。 今年度は、順調に検討が進行した。今後は更に樹状細胞や、NK細胞の分布を検討し、上咽頭の分布地図を完成させたい。
|