研究者らはラットの喉頭筋に、声門閉鎖反射のようなとても速い運動を可能にする、従来のものとは異なるタイプのミオシン重鎖が発現していることをはじめて証明したが、さらに、神経損傷の程度とミオシン重鎖の発現変化ついて観察し、この変化が神経筋活動性を反映し、反回神経麻痺の病態評価の指標になり得る可能性を提唱した。また、ヒト喉頭においても解析を行い、ヒト喉頭特有のミオシン重鎖が存在する可能性を示した。 さらに、研究者らはラット反回神経麻痺モデルを用いて、遺伝子治療の研究へと発展させた。神経、筋に対して強力な栄養作用を持つinsulin-like growth factor I(IGF-I)の遺伝子を、formulated plasmidを用いて脱神経された喉頭筋に導入した。その結果、遺伝子導入後4週の時点で、有意な筋線維径増大、末梢神経再生促進、神経終板保存の所見を示した。反回神経麻痺の治療においては、末梢神経再生不良に伴う筋萎縮が臨床的に大きな問題となっており、現在まで異物挿入による筋容量増大を目的とした静的手術療法のみが応用されている。ここに示された、筋萎縮改善や末梢神経再生促進を達成し得るIGF-I遺伝子治療は、従来に無い新しい可能性を秘めた治療法と言える。さらに最近では、運動神経系に対する遺伝子治療を臨床応用へと発展させるべく、ヒトへの安全性が高いと考えられる新規のRNA vectorであるsendai virus vectorを用いて研究を行っている。筋組織にsendai virus vectorを注射するのみで、筋だけでなくそれを支配する運動神経細胞へも外来遺伝子の導入が可能であり、motor unit全体に対して遺伝子治療が可能であることを示した。
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