中耳真珠腫の上皮増殖について上皮下の結合組織内の線維芽細胞や炎症細胞などが影響しており、種々のサイトカインが介在し、上皮増殖・分化の制御が営まれている。 今回、中耳真珠腫組織におけるKGFの局在と上皮下結合組織内の細胞動態とあわせて検討することと、ヒト線維芽細胞の細胞培養にてIL-1αなど種々のサイトカインを加えることでKGF産生に及ぼす影響を検討し、KGFを中心としたサイトカインによる真珠腫の上皮増殖の調節機構を解明することを本研究の主眼とした。 KGFの局在と上皮下結合組織内の細胞動態については、in situ Hybridization法と免疫組織染色を用いた。上皮下の結合組織が厚く炎症細胞浸潤の多い群ではKGF-mRNAのシグナルの発現が上皮下の線維芽細胞に認められたのに対し、上皮下結合組織が薄く炎症細胞浸潤の少ない群ではシグナルの発現はほとんど認められなかった。 以上の結果より、炎症の多寡がKGF発現に影響を及ぼすことがわかった。また、同一組織内でも部位によっては炎症細胞の浸潤度の差(組織内微小環境の差異)があり、KGF-mRNAのシグナルの発現が影響される傾向がみられた。 表皮細胞の培養実験では、IL-1αにて細胞を刺激するとKGFの発現が亢進することが解っているが、今回、ヒト線維芽細胞を用いて細胞培養を行った結果、IL-1αの濃度を変えて培養を行った場合、抽出されるKGFもdose dependentに増加する結果が得られた。 これらの研究結果から、真珠腫上皮の増殖機序には組織内に生じた炎症によってサイトカインが放出され、線維芽細胞などを刺激し、そこから産生されるKGFを介し上皮基底細胞の増殖を惹起する機構があると示唆された。今後は、炎症を抑制する因子(ステロイドなど)を加え、上皮増殖を抑制させる機構の解明に一歩近づきたい。
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