研究概要 |
1990年11月から1999年12月までの間、診療現場にてその臨床経過や局所所見よりウイルス性急性扁桃炎または急性咽喉頭炎を疑った患者のうち、組織生検を施行し得た47症例を対象にウイルス学的検索を行った。各々の症例から炎症急性期に扁桃ないし口腔咽頭粘膜および末梢血単核球を採取し、同時に口腔咽頭や扁桃局所さらにその他の全身の病的所見を観察し写真などで記録した。 凍結保存およびホルマリン固定した生検組織各々と末梢血単核球からDNAを抽出し、PCR法にてEBウイルス(EBV)・ヒトヘルペスウイルス6および7(HHV-6,7)の検索を行った。ホルマリン固定標本からは病理組織学的変化を観察し、免疫組織化学にて単純ヘルペスウイルス(HSV)および水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)抗原の検出を試みた。またEBV感染症の疑われた症例にはin situ hybridizationを行い炎症局所からのEBV検出を試みた。 対象40症例中HSVを5症例、EBVを12症例、HHV-6を5症例から検出した。今回HHV-7またはVZVを検出した症例、および2種類以上のウイルスを検出した症例は認めなかった。HSV感染例は初診時扁桃炎と同時に口唇疱疹、歯肉炎または口腔粘膜のアフタ形成を全例に認め、うち2例は性感染症による急性扁桃炎であった。EBVおよびHHV-6が検出された症例は高度な頚部リンパ節腫を伴う急性扁桃炎例、扁桃炎を伴わない難治性口腔咽頭炎例など臨床所見は多彩であった。血清学的にEBV抗体価の有意な上昇を伴わないEBV検出症例を認め、従来知られているEBV初感染症である伝染性単核球症以外のEBVが関与している口腔咽頭扁桃炎であることが示唆された。また、急性扁桃炎症例からHHV-6核酸が検出されたことから、HHV-6が関与する口腔咽頭の急性炎症性疾患の存在が示唆された。
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